飯田 剛彦氏(宮内庁 正倉院事務所保存課長、奈良女子大学大学院客員教授)
落合 俊典氏(国際仏教学大学院大学 理事長、日本古写経研究所所長)
日時:2019.9/13(金) 18:30〜21:00
会場:日比谷図書文化館 B1F 大ホール
定員:200名(参加無料)
〈正倉院宝物と聖語蔵経巻の魅力〉飯田 剛彦氏
正倉院には、聖武天皇御遺愛品を中心に約9,000点にのぼる宝物が1250年以上の時を超えて残され、天平の精華を今に伝えている。また、同構内には、隋・唐からの舶載経や、光明皇后発願による五月一日経など、約5,000巻を数える聖語蔵経巻も保管されている。今回は、秋の展覧会の内容も踏まえつつ、正倉院宝物や経巻の魅力についてお話しすると共に、丸善雄松堂と正倉院事務所が進める、聖語蔵経巻のデジタル化プロジェクトを紹介したい。
〈天平写経と一切経 ―その魅力に迫る―〉落合 俊典氏
正倉院聖語蔵に秘蔵されている天平写経は、文化を愛好する人々の垂涎の宝物であると言っても過言ではないだろう。筆者は堺市の郊外にある古刹を訪問した折、奇しくも光明皇后五月十一日経を手にすることができた。巻末の識語(奥書)が無かったことから平安後期から鎌倉時代の写経と想定されていたものである。もう一例挙げれば、個人蔵の奈良写経本が敦煌本と類似することから詳しく調べると梁の武帝の著とされていた戒律の本であった。
このように今でも貴重な古写経が眠っている可能性が高いのが日域である。本講座では天平写経の魅力を「一切経」という視点から掘り下げていく。
講演会レポート
前半の飯田先生のご講演では、御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」(講演会の翌月、2019年10月より東京国立博物館にて開催)の展示品をはじめとする正倉院を代表する宝物の数々や「聖語蔵経巻*」について、その来歴や、修理・修復等を繰り返して現在に保たれる魅力や見どころをお話しいただきました。
後半の落合先生のご講演では、先生ご自身のご経験より、「光明皇后五月十一日経」「梁の武帝の著とされていた戒律本」等との不思議な出会いと、秘められた謎の解明に至るまでの経緯を通し、今なお貴重な資料が眠っている可能性が高い「天平写経」の魅力についてお話しいただきました。
飯田先生、落合先生とも、このような貴重資料が、調査・保存・修復等の作業の継続・進行によって現在に残されていることの重要さや、デジタル化によってデータとして遺され、様々な人のアクセスが容易になる中での、益々の研究の発展への想いが語られました。
参加者の声
たくさんの宝物があって、そしてそれぞれに物語があって、時には主役のこともあれば、歴史を解明する名脇役となることもあり、単純にそのものが発する荘厳さや美しさだけではない、魅力的な視点を得ることができました。(30代)
写経が好きで、あちこちのお寺で見本をいただき、千差万別の文字を楽しんでいました。 講演会で写経の歴史を学び、文字の向こう側に広く深い世界が見えました。ありがとうございました。 ちなみに奈良の東大寺の写経見本、榊莫山先生の文字が好きです。今は代わっているかもしれませんが。(60代)
今回は研究スタイルやアプローチが違うお二人の研究者の講演を聞くことができ、写経や専門的な部分は難解でしたが、謎が謎を広げミステリーを読んでいるかのような、「知らないことを知っていくのは、おもしろい」と改めて感じる楽しい時間でした。(40代)
まなびのカード
当日ご参加のみなさまから、講演を聞いて考えたこと、感じたことをぎゅっと一言につめこんでいただきました。